フードコート⑤

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フードコート④つづき

 

バーガーキングはニューヨークにあると、小汚く、知り合いに鉢合わせたら恥ずかしいような位置づけで、
それはちょうど、若い女の子がひとりで入る汚く小さいラーメン屋のような位置づけな気がする。

日本ではマクドナルドのようなファーストフード屋は一般市民も
おしゃれな人間も利用するが、アメリカではかなりイメージが悪い。

低所得層の教養のない肥満人が主に利用するような、そんなイメージ。

ところがバーガーキングが清潔な日本のイオンモールのフードコートにそれがあると、
なんだかとってもオシャレなお店に見えるからいつも不思議だ。

 

わたしはポテトを探した。むすこは「たべる」が言えなくて、いつも「ぱえる」になる。

メニューにMサイズしかのっていなかったので、

「小さいのはありますか?」と聞いたら、Sサイズはなんと100円であった。

 

 

わたしは感動して、それ、くださいと言った。

「あげたてをお出ししますのでお待ち下さい」と言われて、ポテトをもらうまえに、
呼び出しブザーをもらって席に戻った。

 

 

息子は靴を脱いで、裸足でそのあたりをさまよっており、
わたしは意識が四方八方に分散しながら、

いつかの記憶の後遺症と、感情リハビリ中の身体と、どこにいくかわからない2歳児と、

できあがるはずのポテトと、目の前の食べかけの惣菜などどこにも集中ができなかった。

 

しばらくしてすぐに、ぶぶぶとブザーが振動して、
わたしは大きな音が鳴らないハイテクな配慮にまたも感動しながらポテトを取りに行った。

 

100円のSサイズのバーガーキングのポテトは、100円なのに十分おおきかった。

マクドナルドで食べるポテトよりも太く、塩が控えめで、しかも揚げたてで、
とてもいい買い物をしたとおもった。

 

息子を呼んで、一緒にのこりのご飯を食べた。

いつかの日のように、喉に詰まる感じはなかったが、逆に食べている感覚も味わっている感覚もせずに
ただそこにあるものを体に流し込んだ。

ざわざわは続いていて、
早く、その時間が過ぎればいいとなんとなく、想った。

 

 

ポテトはあつあつで、わたしはケチャップを息子に見つからないように隠して、そっとつけて食べた。

まだ熱いかしきりに気にしながら、息子はポテトが冷めるのを待ちながら、水をのんでいた。

 

 

 

わたしは1年前のその日の、山下の顔や態度をもう一度思い出していた。

とっくに終わっていて、とっくに癒されている部分ももちろんあったが、
彼と一緒に過ごしていろいろな出来事があったなかでも、
わたしにとって最も辛くて最も痛かったシーンは、たぶん、そのフードコートで一緒に弁当を空けて

喉を通らなかったその場面だったみたいだった。

 

 

 

わたしは静かに、そのときの感覚に身を委ね、
そして頑なに拒絶した最後の彼のことを想った。

 

 

この数週間で、わたしが自分の好きな人に対する「信頼」や「裏切り」についてはずっとテーマで、

同時にわたし自身がクライアントさんから失望されたり「裏切られた」と感じさせてしまったことなどを
まだ完全には消化しきれていないでいた。

 

 

 

地味なもやもやは続いており、しっかりと繋がっていた関係が壊れた瞬間についてを
考察する時間は、それぞれいくつもの要素が孕んでいる気がした。

 

 

静かにその時間に身を沈めていると、しばらくして
なにかすぐそばに、真実というものがわたしに羽のように触れてきたのを感じた。

 

とてもかすかで、つかみどころのない、でも何かがそこにある。

 

どかんと答えが明確に降ってきた感覚ではとてもなく、頼りない、
でもスルスルと細い糸のようなものが頬を撫でるようなそんな感じ。

 

わたしはそこに全神経を集中した。

なにかが見えるはず。山下のことを想った。

 

彼は、突然拒絶をした。それまで、すぐ直前までわたしのことを大事にしていたのに、
ある日突然、はっきりとした冷たい態度にそれは変わった。

 

 

わたしは、自分が罪を犯し、失敗し、人を傷つけてしまったがゆえに
彼が離れたのだとそう思っていた。

長いあいだそこを拭い去るのに苦労して、自分を責め続けた。

「書いた」こともだし、「書いた」ことで誰かを傷つけたこともそうだし、
コントロールを続けてわがままに振る舞ったことも
素直になれなかったことも、なにもかも。

 

彼の弱さや恐れはもちろん最初から知っていたが、それを踏まえても、
わたしは自分に学びを強制的に課していた。

そしてそれが、やわらかな真実というものを乱雑にかき消していたことがはっきりと見えてきた瞬間だった。

 

彼は、私を拒絶することで何をしていたのか。

それは、彼自身を守ることであった。

 

 

彼にとって、わたしを許して受け入れることはすなわち、
彼自身を完全に否定し、私を責める代わりに

とてつもない自責に苛まれなければいけないことだったのだ。

 

 

彼は、自分が潰れて誇りも自尊心もズタズタに傷つけられて立ち直れなくなる代わりに、
私を拒絶することに決めた。

それは、彼の、最大限の自分を守る方法であり、彼自身に対する愛であった。

 

わたしは1年が経過したその瞬間まで、彼をそうさせてしまったのは自分が原因だったのだと
まだそう感じていた。

 

わたしが至らなかったから、彼を傷つけ、そして拒絶が起こったのだと。

 

でもそのとき、1年前に起こったシーンを同じ場所で、もういちど丁寧に、
高い場所から優しく、眺めていく。

 

彼は私を責めていたのではなかった。

 

彼は、私を責めていたのではなく、
必死に、自分を守ろうとしてる。

 

 

フードコート⑥

 

 

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