Holy night ②

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2歳のお誕生日に、クライアントさんたちからいただいたプレゼントたち

 


 

 

もしも、聖なる夜に、

わたしが何もかもを赦すことができたならば、

これほど大きなクリスマスのギフトはないだろうと、そう思った。

できるかどうかは定かではないが、試してみる価値はある。

 

今まで人を許せないことは、人生の中でほとんどなかった。

 

でも記憶の蓋を静かに閉じた状態で、

わたしは一番大切な息子を授けてくれたその人に、

感謝と罪悪感と許せない気持ち、

いろいろなものをまだ、持ち合わせていた。

 

わたしは何度にも分けて、その「赦す」を試みてきたつもりだった。

 

確かにその都度、苦しさはオセロがひっくり返るみたいにして、

ひとつずつ、黒から白へと数を増やしているように見えたし、

今更、お金を払ってほしいというところにしがみついていたわけでは毛頭なかったが、

別のところで根に持っていたというか、わたしの恐怖にすり替わっていた根っこが見えたのは

その日であった。

 

 

祖母の家に着いて車を降りる前に、携帯が鳴った。

開くと、先生から軽快な様子で、

“まいちゃんの中で、たおくんのお父さんをやっと赦せているようだね^^”

と届いたのを読んだ瞬間に、

もう味わい尽くしてきたはずの感情が一瞬で溢れて、口から飛び出してきた言葉は、

“赦せないよ・・・・”

であった。

 

わたしのなかで何が起こっているか、彼女はわたしよりも先に知っているため

そこに

“やっと赦そうと決めたみたいだね^^”

ではなく、

“やっと赦せているようだね^^”

と書いてあったのを読んで、

「許せないよ」と涙を流してきた行為自体が、

時間をかけて、すでに赦せてきていることに

心底ホッとした。

 

息子は、わたしが泣きわめく様子に動じることはもうなく、

一瞬心配そうに私の方を見る時に、

わたしは瞳いっぱいに涙をためて、彼に思いきりの笑顔を見せるようになっていた。

そうすると、彼は泣かずに、安心した様子で私の頭を撫でた。

“笑顔” の威力はやはり抜群だ。

 

 

祖母の家に入り、ケーキを食べて、暮れていく空を窓から眺めていた。

家の前が用水路と田んぼになっていて、広い空が見渡せるのだ。

 

ちょうど半年近く前の、反対の季節に、

好きな人に送った蒼い空は、その場所で切り取った。

 

ある時、彼のSNSに空の写真が投稿され、

そのコメントは私へのラブレターのように思えた。

彼を愛おしく思いながら、同じようにその日の空と向日葵を写真に撮って、

わたしはSNSにあげた。

 

この後に及んで、

もはや好きな人に何かを買ってほしいとか、お金がどうとかは、

ほとんど水に流されつつあって、どうでもよくなっていた。

いろいろなことを許せなかった奥底には、古い記憶がぎっしり詰まっていて、

それは彼には全然関係がなかった。

 

彼に対してもごめんなさいは、何度も溢れていたが、

謝られても返事がしようもないだろうことも、よく分かっていた。

 

嬉しいことも

悲しいことも

怒っていることも

辛いことも

感謝の気持ちも

祝福も、日常の些細な風景も、

今までずっと、彼にシェアし続けてきた。

それのどれにも、彼は返事をしないと決めたら、返事はこない。

 

わたしは祈った。

ひたすら彼に、思うことがあるたびに、

彼に目を閉じて伝えるような方法に変えて、

何か言葉を放つ代わりに、綺麗な写真が見つかったり撮れたりした時だけ、

無言で送り続けた。

 

 

陽が落ち始めて、

いよいよ薄いブルーの中に、次第にオレンジが混ざった時、

わたしは慌てるようにして息子を散歩に誘った。

いま外に出なくてはいけないと、直感的にそう思って。

 

普段なら、散歩といえば喜んでついてくる息子だったが、その時は何故か渋り、

わたしは祖母と祖母の犬も一緒に誘って、全員で外に出て、

彼を三輪車に乗せた。

 

車にわざと置いてきた携帯を取りに行って、握りしめ、

一瞬一瞬が流れていかないように、必死でカメラにその青を残した。

 

わたしは昨日洋服屋で買った、

あったかい、背広みたいじゃない、手触りのいい、

こげ茶のコートを体に巻きつけていた。

下には、エドウィンだかリーバイスだかの、あったかくて伸びるジーンズの、

お姉さんが “これ、すっごくすっごく可愛いんです!!” と言ったほうを着ていた。

 

可愛い方は、もうひとつのほうよりも薄手だった上に、

いつものモコモコのブーツじゃなくて、その日は古いニューバランスのスニーカーを

珍しく履いていたので、

足元はとても寒かった。

 

三輪車の背中についた棒を押しながら、片手で “さんぽ” とタイトルを打って、

彼に空の写真を送った。

 

なんだかもう、いろんなことが十分、十分満ちていて、

大きな山の頂上からそろそろ下山してもいいかな、という感覚にはなっていた。

 

わたしは、疲れ果てていた。

 

祖母と犬の背中を追い越して、頭を真っ白にして、

いろんなことを感じながら、ズンズン三輪車を押していくと、

途中で何かが一本の線でつながった。

 

わたしはその近くに住んでいた短い時間、すぐに妊娠をし、

結婚する予定でいたので、彼は付き合ったそばから

ありとあらゆるものを私に買い与えようとした。

 

まだ親しくなって間もない時に、

ジュエリーの店にわたしを連れて行き、欲しいものを聞かれ

わたしは戸惑ったが、

とにかく何かを買ってあげたいと言うので、

わたしはおそるおそる、ネックレスだのピアスだのを選んだ。

 

彼はそういうものを見るのが好きであり、

わたしにそういうものが似合うから買ってあげたい、と言った。

 

わたしが “指輪に憧れている” 話をした時も、

すぐにティファニーで欲しかったリングを買ってきた。

そして指輪の店に入り、ふたりで実際につけてみたりして選んだものが

しばらくすると、“注文したよ” と言われ、

わたしは次第に怖くなった。

 

彼は決してお金のある人ではなかった。

恋愛に対する過剰なコンプレックスを抱えており、貢ぐ癖があるようには見えなかったが

それは心地よく何かを買ってもらう、純粋なものを超えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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