「食べつかせる」ということば

 

久しぶりに本を買って、開いた中に「食べつかせる」という大きな文字が飛び込んできた。

辰巳芳子先生の、「あなたのために いのちを支えるスープ」P.134より

 

食べつかせる

日本語に、「食べつかせる」「食べつく」という、看護人の態度と、病人の様子を表現した、独自の言葉がある。

食べつかせるとは、食べられる状態であるのに、食べれば回復が早いはずなのに、食欲がきっかけをつかめず、宙をまさぐっているような人。この人の気の先をつかんで、好みのものを与え、食欲の焦点をつくってあげることをいう。

「なんとかして、食べつかせねば」これである。みんな、こうしてもらって今日がある。

昔、私は、15年も結核から抜け出せなかった。エアコンのない盛夏の安静は、食もおとろえる。「これなら食べられるだろ」母は、あわびのやわらか煮のにぎりと、酢じどりしょうがの細巻きを考えついてくれた。

「お母さま、おいしい!」

「気に入ったかい、毎日でもお上がり」

母の満足気な笑顔が、今も目に浮かぶ。母は「食べつかせ」の名人だった。私たちも乗り上手だったと思う。

食べつかせるーこの言葉、現代にこそ流行らせたい。食べつかせられる親の子供に、「キレる」はないであろう。

 

 

 


食べつかせる、これは看護で使うことばらしいけれど、この、

 

この人の気の先をつかんで、好みのものを与え、食欲の焦点をつくってあげることをいう。

 

これがまさに、こどもに食べさせる時にまったく同じことが起こるのだ。

いつも、おかあさんたちが「うちの子は食べなくて」「好き嫌いばっかりで」「これしか食べないから、毎日これをあげてる」

というのを聞いて、本当に残念なきもちになることがある。

 

こどもは、食べないんじゃない。

その子の食が細かったり、好き嫌いがあったり、食べれないのではないのだよね。

いつも、小さなこどもに食べさせるとき、わたしは無意識に、「食べつかせる」をしていたのだと気づく。

好き嫌いがある人たちに、常に「マイの作ったものだとなぜか食べられる」と言われてきたのは、わたしが魔法使いだったからではない。

 

その人の気の先をつかんで、食べられそうなもの、または今、なににつまづいてるかを見て、障害があれば取り除く。

そして食べられるきっかけをつくってあげてきた。

 

だから、ほとんどの小さなこどもが、普段食べられないものを必ず口にして食べることができたんだと思う。

 

 

重要なのは、「食べない」「食べられない」のではなく、

 

食べられる状態であるのに、何か理由があったり、食欲がきっかけをつかめず、宙をまさぐっているだけである

ということを「食べさせる側」は理解することだ。

 

 

昔たこやきの少年のはなしをかいたけど、彼はたこやきが食べられなくて泣きじゃくっていたのではない。つまようじか箸を使う部分で四苦八苦して、そして泣いていた。

先日タオ氏は弁当を買ってきたのを見るや否や、「お弁当、嫌。」と言った。

疲れていたので買ってきてもらったのに、一瞬どうしようと思ったが、嫌な理由をすぐに察知した。

プラスチックのパックから全てをお皿に盛って、いつものマットの上にママが作ったように出した。

「これなら食べれそう?」

満足気に「うん!」と言って元気に全て、食べてくれた。

 

こどもは、食べないのではなく、食べられないのではなく、

食べつかせることが必要なのだ。

 

量や、大きさや、時に道具だったり、そうした周辺の器の問題であったり、もしかしたら椅子の位置が関係しているかもしれない。

大皿から取り分けるのも通常食べるのが難しい場合がとても多い。

適切な量を、最初から1皿に盛れば、食べられる場合はたくさんある。

 

見た目や匂いがダメでも、口に入れたらおいしい場合もある。

 

そんなときは、わたしはまず、「食べつかせる」ために、食事に手をつけない時に困ったまま放っておくのではなく、一度口にいれてあげる。

そうすると、食欲がきっかけをつかんだり、口の中でご飯を食べるという行為のことを思い出せたりするのだ。

流れさえできれば、あとは勝手に食べてくれる。

 

辰巳芳子先生のことばは、いつも人々の背筋をぴんと伸ばしてくれるような崇高なものばかりで、日本や日本の文化や日本の言葉にStruggleし続ける自分を、洗い流してくれるような気がする。

わたしもまた、普段自分がやっていることをひとつひとつ精密に、美しく確認させてもらうみたいに、敬虔なきもちになる。

 

自分にもまだ、この先の残りの人生で、できることがあるだろうか。

そんなふうに思う。

 

 

 

 

 

 

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