コインケースは棺桶に①

 

 

2月28日。地獄のバースデーから数日後。

わたしはそれをもって、晴れて死体確認とした。
参照(チュモンは生きている

 

 

 

 

 

 

 

 

3-5-17

今日は、どうしてもソファで眠りたい。参照(ソファ

一夜明けて、何度か爆発的な哀しみを味わって、
だいぶ謐けさは戻ってきた。

とっくのむかしに彼の中では関係は終わっていたんだろうに、わたしは最後まで、待った。
たまらない想いがした。

惨めだし、愚かな自分に言葉にならないの屈辱を感じるけれど、
それでも絶望したまま好きでいることを選択したのは自分だった。

 

わたしは連絡がなくなったあとの丸2ヶ月以上の間、
何事もなかったかのように彼に写真や愛のメッセージをほとんど毎日のように送り続けていた。

 

2月28日の誕生日に彼と逢うつもりだった約束が、

私の中では間違いなく有効で

自分がまだ彼と繋がっていることをどうしても信じたかったからでもあった。

 

 

それは叶わなかったどころか、欲しかった指輪を買ってもらうどころか、

おめでとうどころか、「逢えない」の一言もなく、

わたしはシンプルに、2ヶ月以上そのままに、
その日も変わらずに無視をされた。

 

 

 

 

その長きに渡る浄化祭の苦しみについて、実際は次に進むためのプロセスや
さまざまなコンテンツが含まれていたわけなのだが、

わたしはとりあえず、すべてを

”好きなひととうまくいかなかった” という事のせいにした。

失恋はわかりやすく、過去の傷を癒す引き金になってくれる。

 

 

死体確認、又の名を失恋ともいう、が無事に済んだならば、哀しみに耽るのは
葬儀がすべて終わってからだ。

ところがわたしはむしろ、死体が確認されるその日までにありとあらゆる絶望を
前倒しして味わい尽くしてきたようなものであった。

 

 

 

 

さて通例何かを忘れて次に進みたい時や手放したいとき、
わたしはすぐさま物質的な整理をする。

どれほど気に入っているものであろうが、高価なものだろうが、想い入れがあるものだろうが、
終わった瞬間にさっさと手放してスペースを作りたい。

その辺はわたしは実にプラクティカルで建設的な人間であった。

 

 

ヒリヒリしながらクローゼットを開けて服を見渡すと、

彼と会う時に毎回ドキドキしながら洋服と下着を買いに行った忌々しい記憶がありあり蘇った。

写真を撮って送って、「似合うね」と言ってもらってすぐさま買った、
紅いセーターは、真っ先にハンガーからぶん取ってゴミ袋に入れた。

すでに散々泣き通してきたので、
その瞬間感傷的になって涙が出るようなことはなかったが
激しい吐き気が襲った。

 

全身に記憶と感覚がこびりついているように、今さっきの出来事のように、

その紅いセーターを着て撮った写真のことや、
そのホテルの部屋で彼を待っていたものすごく幸せだった時間が蘇る。

 

 

普段大切なものを見送るとき、とても簡単に棄てられないものは
丁寧に袋に入れて神社に持っていく。

それは毎回の儀式だったが、そうやって重々しく事を捉えるから毎回ここまで苦しいのかもしれないと思い、
わざと普通の燃えるゴミの袋に

りんごの皮とかドキンちゃんの絵の書かれた使用済みオムツの入ってる中に
無造作に交えて捨ててみることにした。

 

洋服など布はエネルギーの関係で他のゴミと一緒に棄てない方がいいことを知っていたので、
なんか無駄に運気が下がるのも損だなあと
変なとこでケチケチし、一応別にした。

 

 

 

 

 

ビリビリに破いた写真を、生ゴミとドキンちゃんの間にねじ込むようにして、

わたしの顔も彼の顔も、
そのまま薄汚れて、運気など好きなだけ下がればいいと鼻息を荒くして

神社に持って行ってパンパンと両手を合わせて手を叩く代わりに、

せいせいするぜ!!のほうの、両手を前後に叩く真似ごとをした。

 
なぜか破り忘れて本の隙間から後で出てきた二枚に限って、

お気に入りの、頬にキスをしてくれている写真だった。

 

 

 

 

毎回、いつも通り許して愛情が戻ったら
懲りもせずまた眺めて幸せな気分に浸ろうと思うのだが

今回ばかりはそのまま燃えてしまえと思いながら、さっさとゴミの中に供えた。

 

そのような、彼にまつわる
細かなコレクションはゴミ行き直行便で良しとした。

 

 

 

さて、それでは問題はというと、例のスマイソンのハートのコインケースである。

参照すきなひとのはなし一覧

 

 

 

いつかずっと前に、「買って」とねだってあった大好きなスマイソン。

 

仕事人間で全国を出張で駆け回り
タクシー代をケチって庶民アピールを欠かさなかったその人が、
女の子にプレゼントを買うようなところはとても想像がつかなかったが、

とりあえず忙しい彼の手間をとらせぬように

クリスマスや誕生日に欲しいものの詳細を伝えてあった。

 

 

 

その後音信不通になったのちに、クリスマスが終わった3日後に

無言で送られてきたハートのコインケース。

 

嬉しくて、涙がちょちょぎれるほど嬉しくて、

死ぬまで大切に取っておこうと思った。

 

スマイソンブルーの箱と、紺色のリボンと、
注文者の名前が書いてある発注書から箱についていたラベルから、全部、全部大切に取ってあった。

 

これは一体どうしたものかと頭をかしげる。

 

死体確認した瞬間は、あまりのショックに

さっさと棄てて

自分で新たな別のスマイソンでも買いに行こうと
痛烈に思ったのだが、そんな気力などどこにも残っていなかった。

ついでに収入源だった個人セッションも辞めちゃったから、お金もなかった。

 

 

しかしそのときは今まで通り大事に手に触れることがあまりに辛く、

見るだけで涙が滲んだので、
ハートの中から小銭を全部出して

とりあえずバッグの中のポケットにジャラジャラと散らかした。

 

 

 

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