前払いの違反切符①

Ultimate Fort(絶望要塞)記事一覧

雪の浄化祭 stuck 続き

 

 

くるまのなかで静かな時間が長らく経過したのち、ほとんど朝方になって、目的地についた。

散々ひとに迷惑をかけている立場で、疲れたなんていうのはおこがましく、深夜に長時間運転してくれて送り届けてくれた見知らぬお母さんたちはもっと疲れているにちがいなかったが、

そんなことを考える間もなく

わたしは、ぐったりと疲れはてていた。

 

 

帰り道が空いていることを願うほどの余裕は

当然ながらそのときのわたしにはなかった。

 

深々と頭を下げ、「本当にありがとうございました」と言い、「本当にありがとうございました」以上の言葉が
この世に存在しないことを淡々と想った。

 

わたしは精魂尽き果てていて、本当はインターネットカフェではなく、ホテルで休みたかった。

 

そんな緊急時まで贅沢をしたい自分がうらめしかったが、
これ以上辛い思いをしたくはなかった。

翌日どうなるのかもわからない、

すぐに帰れるのかも、一体明日が来るのかもわからないような
極限に神経をすり減らした状態で、

長時間タバコ臭い密室のなか、パソコンと一緒に待つのは嫌だった。

部屋を抑えてあった彦根城のホテルは、
地図ではたったその場所から7分であったが、

それは通常の道であったらの話である。

 

あれだけ手を尽くしてくれた優しい家族に、これ以上わがままは言えなかった。

わたしはインターネットカフェに入り、受付のひとに場所を案内してもらって、小綺麗な場所であることはわかったが、暖かく身体を休められそうではなかった。

受付でウロウロしたあと、どうしてもホテルに移動しようと思ったわたしは外に出て、まだ送ってくれた彼らの車がそこにあることに気づいた。

ハッとして見つからないことを祈りながら、すぐに建物の中に戻った。間もなく出発していって、わたしはぼんやりその車の後ろすがたを見つめながら、

いつか別れた男のひとに
「お前は金がかかるから、どうか他の男を探してください」と振られたことを思い出していた。

 

わたしは自分で自分のことを、さほど物質に興味がないと思っているが、でもマリーアントワネットの

「パンがないならブリオッシュを食べればいいんじゃない?」という気持ちはよくわかった。

それは何ていうか、嫌味なわけではなく純粋なものであった。もちろん選択肢の存在しない状況下で、むやみやたらとわがままに振る舞いたいわけではないし、インターネットカフェで暖を取られればそれは十分だという謙虚な時だってある。

 

でもそのときは違った。どうしても違った。

わたしは意地でも、這ってでも、ただ、自分甘やかしたかった。

マリーアントワネットのように、「インターネットカフェじゃなくてホテルで休めばいいんじゃない?」と思っていた。

泊めてくれたら全員こんなに疲れる必要はなかったのにと怒っていた。
ここまで来たなら、ホテルまでだってさほど変わらないじゃないかと

怒っていた。

 

 

 

それは、その日の雪の夜の体験によって
引き起こされたわけではなかった。

 

すでに嫌という程絶望を味わい尽くしている時間は、恋人から背を向けられた12月より長らく経過していて、もう、あと少しのところで
何かが切れたら、

わたしはこの世界にこれ以上存在することは難しい気がした。

 

 

 

わたしは引き続き、虚しさの混じった世界に対する怒りと、
怒っている自分に対しての怒りとともに外に出た。

 

 

真っ暗な、深夜4時を回った頃。

世界は闇に包まれているはずなのに、風景は
真っ白なことが、非現実さを強調していた。

まっすぐに道路に向かって歩く。
車の通りはまばらになっていて、ホテルに行くにはヒッチハイクするしか方法はなかった。

 

わたしは例の擦り切れた普通の皮靴に、寒そうな足元で、小さな黒のハンドバックを脇に抱え、震えていた。

 

雪が降っていて、道にでて、
通る車に向かって手を上げたが誰も気づいてはくれなかった。

じろじろ、見られているのだけはわかった。

 

 

少し経って本当に凍えそうになり、疲れと空腹と寝不足も手伝って意識を失いそうになった。

道路でつかまらない車を見送っていると、
さきほどのインターネットカフェの駐車場から一台の白い車が出てくるのが見える。
名古屋ナンバーで、わたしは雪の散る道をもう一度渡り、走り寄って道路に出る前のその車に声をかけた。
親切な人で、送っていきたいがすぐに仕事にいかねばならず、進行方向の途中のコンビニまでならということであった。

 
なんだがとても久しぶりに、
まともにひとと話したような気がした。

そのひとが、「警察に乗せていってもらえるといいね」と言うと、ちょうどパトカーが同じコンビニに入ってくるのに気づいた。

 

駐車場には別のパトカーもいて、雪で動かなくなった各地のこまったひとを救出するのに彼らはとても忙しい様子であった。

 

わたしは白い車のひとが、

「力になれなくてごめんね」と最後に言ってくれたことに、温かい気持ちになりながら
すぐ感謝を述べ別れを告げた。

 

 

 

 

そのままパトカーに駆け寄り、
「彦根城にいきたいのです」とだけ言った。

 

なにがあったかももちろん説明もなしにそれだけ言った。

切羽詰まった状態は、とうの昔に通り過ぎていた。
たったひとこと言葉を発したその端から、わたしの目には涙がまた溢れてきた。

 

 

 

わたしの中にはもう愛も優しさのかけらも残ってはいなくて、
夜中にそのままどこかで行方不明になって死んでも、

わたしが好きでいた人は心配するどころか

きっと気づくことすらないまま

わたしはこの世から消えるのだ

 

それくらい自分は無意味だったのだと

夜通し思いながらいて

 

世界と自分を最後につなぐ、「書く」と共に

 

私をその時にギリギリの淵に立たせて生かしていたのは、

まぎれもなく傲慢さと怒りと、

そしてシンプルな、絶望だったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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