石を拾う①

 

 

 

 

その日はちょうど、年が明けて初めての満月だった。

わたしは足を踏み外したまま、世界へ本当に届けたい自分の原点を毎日コツコツ
インスタグラムに投稿しているところで

(参照 泥のように”毎日続けること”

 

そこはもはや、目的を完全に見失って
単なる個人的な恋愛感情のはけ口として使われているような

発信の場所になっていた。

 

わたしは「彼」しか見えていないことに当時まったく気づいておらず、

その自分のコンセプトは、そもそも彼のために作られたわけじゃないのに

一心不乱に消えた恋人を追いかけながら

不純な動機と不純なエネルギーを乗せて

 

 

こつこつ、寂しさを紛らわすように

それを続けていたのだった。

 

 

年があける前のクリスマスに、ひとしきり大きな感情の解放を行ったわたしのもとに

少し遅れて送られてきた黄色いハートのかたちをした小銭入れは、

恋人に、ずっと前に「クリスマスにこれが欲しい」とお願いしていたものであった。

 

 

わたしはそれが無言で送られてきたとき、嬉しくて涙したが、その後も連絡がつくことはなく

そのあとしばらくしてわたしは、

 

 

「あれこそが手切れの贈り物だったのだ」と

改めて二重に落ち込んだ。

 

 

 

それは、一目見て可愛かったが、
日に日に、手になじむほどに愛くるしさが強くなっていくような、
毎日使っているごとにもっと可愛さを増していくようなそんな気がした。

 

 

 

 

 

日本には恋人どうしがプレゼントを買ったり、

子供がサンタクロースから貰ったりする習慣こそあるが、大人同士がお祝いしあう文化はない。

 

 

わたしはクリスマスイブに脇目も振らずに延々とサンタクロースになるために記事を書いており、

そんな中でアメリカにいたスタッフのブログで

彼女がわたしにプレゼントを送ってくれたことを知った。

 

 

 

自分自身に何かを買うことも忘れていたその年のクリスマス

わたしのことを想ってクリスマスを祝ってくれたのが

 

 

音信不通の恋人とそのアメリカのスタッフの2人ということになる。

 

 

 

海外小包は時間がかかるため、わたしは何が届くのかはそのまま知らずに

鬱々とした心もとない年を越し
そしてあいも変わらず、彼からの連絡を、待っていた。

 

これまで、毎日のように

その日に見た景色や空を送り合っていたやりとりが

ピタリとなくなって

 

わたしはその満月の日に、期待していたが、彼から連絡がくることはなかった。

 

 

ひたすら寂しくて、ヒリヒリするような心地で過ごすそんな時

四方八方に意識が散らばって漠然とした不安に包まれるだけの時間をさまよいながら

暗くて冷たい夜だった。

 

 

 

家に戻ってポストを開けたときにクリスマスから一ヶ月近く経って

アメリカからの小さな小包は届いていた。

 

 

 

プレゼントを送ってくれたことすらすっかり忘れていた。

恋愛だけではなくて仕事のことも、ある意味とっくに行き詰まっており、毎日をこなすのに必死であったわたしを

その茶色の箱は、優しく、慰めているような気がした。

 

 

 

 

心細いときに

わたしはよく、外国に逃げることをしてきた。

 

彼女の存在はある意味自分にとって、

逃避場所でもあり

辛くなったときに想いを馳せられるような
そんな役割も果たしているような気がした。

 

 

 

自分と世界をつなぐときに

どこか

誰も知らない遠くの外国にその糸の先があると

わたしはなぜか、ほっと救われるような心地がした。

 

それは自分にとって、
わたしたちは決して独りではないと感じられる、どこでもドアのような安心感だったのだ。

 

 

 

冷たい階段を上がり、部屋に暖房を入れて
落ち着いた頃

しばらくして

何週間もかけてはるばる海を渡ってきた

その箱を開けた。

 

 

茶色のダンボールの下には、
スターバックスのマークの付いたココアのパックが透明のテープでぐるぐるに巻かれている。

その、無骨なプレゼントの感じは私の知る限り外国特有のもので、綺麗な包装紙に包まれていないことが、またわたしを故郷に引き戻すように安心させた。

 

英語で書かれた日用品の端くれは
すでに涙をにじませるに十分の恋しさがあった。

 

 

緑色のスターバックスの奇怪な人魚の絵の中に、

まだ何が入っているのかは全く見当もつかなかったが、透明のプチプチで厳重に包まれているガラスのようなものが見えた。

 

 

ずっと前に、いつか彼女に住所を聞かれて

「送りたいものがある」と言われたことを思い出した。

 

 

 

 

季節ものだと言っていたので、果実酒を漬けるとか、漬物のような、一定の期間しか取れない何かというのはその時イメージできた。

それが今送られてきたんだな

と”梅酒の匂い”想像しながらプチプチを手にとると、まず

手に何かべたっと液体がついた。

 

アメリカを恋しく思う切ない感傷からすぐさま

「うわっ」と我に返り、

箱のなかで、明らかに何かがこぼれていることを確認した。

 

海外から荷物を送るときに
そんなことはよくあるパターンである。

 

 

 

おそるおそる匂いを嗅ぐと、それは果実酒の匂いではなく、「油」の匂いであった。

 

わたしは一瞬わけがわからなくなり、そっと中身をのぞくと、

瓶ごと完全に破壊されて割れたなかに、

ガラスの破片と油でベタベタな可愛い色のリボンとともに、朱色やピンクの石が見えた。

 

 

わたしはますますなんだかよくわからなくて、

袋から

油で、水浸しならぬ油びたしになったメッセージカードを取り出すと、そこには

ていねいな文字でMerry Chrismas!と書かれていた。

 

 

 

 

 

”Dear Mai さん Merry Christmas!

オシャレなものが全くないトコなので、ならば自然のものをと思い、いくつか贈ります。

びんに入っているのは、この辺りで採れるAgate(瑪瑙メノウ)という石です。

私の唯一の趣味がagate huntingで、夏の間湖岸に這いつくばって拾っております。

光に透かしてみるときれいです。

乾くと美しさが減るのでmineral oil に入れてあります。

木の箱はJuniperという木材で出来ています。中の石は nene とAquaeSuliss のイメージで選びました。

愛を込めて

A”

 

 

 

 

 

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