雪の浄化祭 Stuck③

 

 

 

渋滞の高速道路を脇に何とか入り、わたしはほっとした。

とりあえず時間も遅くなってきていて

今から家に帰ることもできたが、疲れたらどこかで一泊余分に宿泊しようと思った。

 

それもまた、過去だったら宿泊費がもったいないからという理由で、
体を酷使してでも帰っていたところを自由に選択することができる今の状況に、
誇らしく、ありがたかった。

わたしは天気予報も法律も何も知らなかったが、

お金ってすごいなと素直にそう思った。

 

 

 

そしてここからが、悪夢の始まりであった。

 

 

まず、高速出口の急カーブした坂を雪の中ゆっくりくだって降りると、そこはほっとするような道路の街並みではなく、真っ暗で閑散とした、

何もない場所であった。

 

 

わたしはとても嫌な予感がした。

携帯電話の地図で見るだけでは街の様子まではわからない。

 

さほど遠くない場所にガソリンスタンドはあるはずだったが、
道路に出た瞬間に、そこは完全なる雪道であった。

わたしは瞬間的に、高速を降りるべきではなかったことに何となく気づいたが、

それはすでに手遅れであった。

 

また高速の入り口に戻るわけにもいかず、とりあえず進むしか選択肢は残されていないような気がした。

 

 

その場所は、脇に雪が積もって道路は走れるようになっている、

わたしの知るかぎりの雪景色とは違う。

 

道路が一応道路と認識できるにせよ、
道路の真ん中にしっかりと雪は積もっていて

その上は車が走行できるような状態ではなかった。

 

 

わたしと同じように走った形跡だけはあるものの、ほとんど車の通りもなく、ぽつぽつと民家だけが建ち並んでいて、わたしは漠然とした恐怖に見舞われた。

 

 

向こう側から、反対車線をトラックや数台のくるまが
ゆっくりとしたスピードでこちらに向かってきた。

わたしは、わけがわからないまま、とにかく走り出してしまった手前戻ることもできずに

そのまま前に進んだ。

進むといっても、しっかり積もった雪の上を走行できる距離などたかが知れており、いよいよ自分が何をしているのか、どうすべきなのか、

まったくわからなくなったまま
携帯で一番近いガソリンスタンドを探して、電話をかける。

 

電話の主は、もうとっくに閉店しています、とわたしを冷たくあしらった。
時間はよく覚えていないが、夜の9時頃になっていたとおもう。

とっくに閉店していますと言われても、どうしたらいいかわからなかった私は
困ったそぶりで簡単に事情を説明すると、

「どこかの道沿いの、何とかというスタンドなら24時間やってるかもしれない」と端的に教えてくれて、電話を切られた。

 

知らない場所で、その24時間営業のガソリンスタンドまで、
この埋もれた雪のなかどうやってたどり着くのか見当もつかなかった。

 

 

誰かに助けてもらわねばいけない状況だけは確かだったが、
とにかくわけもわからないまま数メートル雪の上を

雪の潰れる、鈍い音をたてて
ぐらぐらゆらつきながら進んで、信号もない小さな交差点で、

誰かが立っているのを見つけた。

 

 

 

わたしはすでに、ほとんどパニックに陥っていた。

 

数時間前までの、余裕でSNSに投稿していた、ぬくぬく
車のなかで好きなひとのことを想っていた感覚とは天と地の差があった。

 

 

そこは知らない場所で、車は間もなく止まり、

辺りは全て、雪。

 

交差点に立っていたのは道の封鎖の案内をする警察官であった。

事情を説明すると、彼もまたどうしようもないといった様子であった。

 

 

わたしはそのままその場所で立ち往生した。

同じように車がやって来ては、その警察官のひとは
向こうの道が事故で通れない旨を説明しているようであった。

車が、わたしが元来た道に、戻っていく。

 

さきほど反対から走ってきたトラックは、

わたしと同じように渋滞の高速を降りたが、どうしようもないことに気づいて
もう一度高速に戻っていくところだったのだ、と

頭が真っ白なまま、微かに、意味のない想像をした。

 

そしてわたしには、元来た道をもう一度雪が増えた状態で
走る勇気ももなく、そもそも元来た道を戻るだけのガソリンも残っておらず、

いよいよその場所でふん詰まりになったのである。

 

 

わたしはパニックのまま、実家の父に電話をかけた。

状況を説明し、雪道の運転に慣れている父は
あれこれ策をわたしに提案してきたが、その状況で自分にわかることは、

「どうしようもない」というそれだけであった。

 

 

 

 

話しているあいだ、わたしは自分が怒っていることに気づいた。

動揺しているとか、落胆しているとか、取り乱して泣いているとかではなく、

しばらく苛まれていた虚無感の中に混じる、

「一体どうしたらいいんだ」と怒りを覚えるような、そんな感覚であった。

 

 

ただ、もうずっと世界に見棄てられている気がした。

 

 

父は繰り返し、JAFの話であったり警察の話であったり、

ガソリンスタンドについてや緊急で助けを求める機関の連絡先など提案した。

 

 

わたしは自分で電話をかけたくせに、呆然とふてくされたまま
「どうしようもない」と言い続けた。

車の中で、交差点の真ん中で、まだかろうじてエンジンはかかっていたが、

いつ止まってもおかしくはなかった。

 

 

 

警察のひとは、
「そんなところに止まっていると困るので、動いてください」と言ったが、
わたしは「そんなこと言われても、動けないから困っている」と

とても悲しくなって、そしてとても悲しく、とても怒っているのを感じた。

もちろん怒っているのを表現できるほどの
パワーもエネルギーも私には残されておらず、

はたから見れば、アクシデントに見舞われて混乱している
ただの哀れな人間に見えたろう。

 

 

パニック状態のまま電話を切っては繰り返し父からの安否確認の電話がなり、とやっているといよいよ物理的にタイヤが雪に埋もれて車が動かなくなった。

 

警察のひとになんども、

「そこはとにかく邪魔なので、脇に寄せてください」と言われて

いやいや動かそうとしたが、すでにタイヤは空回りするだけで、

文字通り、わたしはその場所で

前にも後ろにも、

 

 

行き場を失った。

 

 

 

 

 

 

 

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