祭前 高速道路②

 

 

ビュンビュン走っていると、サイレンを鳴らしたパトカーが後ろに走っていて、
何か言っているのに気づいた。

その瞬間にいやな予感はしたが、わたしはドラッグ中毒のようにハイになっていたので、その時も錬金術師になりきっていた。

「わたしは女神」「わたしはアルケミスト」と
ノリノリの世界にピーポーピーポーは存在しない。

しばらく我関せずの態度をとったのち、

おおきなサイレントともに「止まりなさい!」と言われたので、

そろそろシラを切りきれないアルケミストはおとなしく諦め、

高速道路の脇に車を止めた。

 

遅刻の可能性は、マラソン大会で30パーセントになったのが、
55パーセントくらいに上がった。

スピードを出しすぎていたのか、とも一瞬思ったが、
同じくらいかもっと速く走っている車はいくらでもいた。

 

ふたりの警察官が出てきて、パトカーの後ろに乗りなさいというので
大人しく従った。

それほど高圧的ではなかったが、

「どうして捕まったのかわかる?」と言われたときには
さほどいい気はしなかった。

わたしは急いでいた。バケイションであれば、
のんびり楽しくウキウキ捕まったかもしれないが、

わたしには重要な仕事がこのあと待ち受けていた。

 

理由が本当にわからなかったので、「わかりません」と答えた。

警察は、「高速道路で右車線ばかりを走ってはいけない」件について
丁寧に説明をした。

 

”法律”についてのはなしをされて、

なるほど、自分が生きている世界には”法律”というものが
存在しないらしいと考察した。

それは時に、牢屋に入れられることもあるかもしないが

それを差し引いたとしても、幸せなことだった。

 

 

 

 

わたしは急いでいたが、こういう場合は
抵抗をすればするほど物事というのは余計に時間を要することを
経験上よく知っていたので、

とても素直に言うことをきき、
とても素直に「知りませんでした」と言い、

そのまま違反切符を受け取った。

 

 

 

 

 

 

予定外にお金を払わなくてはいけないときにはいつもどきどきする。

9月に沖縄で撮影にいったときも、1日目にいきなりレンタカーで事故を起こし、
爽やかなブルーのフォルクスワーゲンのホイールキャップを紛失したわたしは

一体それが幾らになるのかハラハラしながら請求額を見た。

 

 

 

そして今回その違反切符の金額は、6000円くらいであった。

わたしはaffordable なその数字にほっとした。

 

 

 

十数分のロスののち、時計を見ると、遅刻の可能性はそこで70パーセントくらいであった。

わたしは「今の十数分を、休憩時間とする。」と
心の中で高らかに宣言し、そのまま運転を再開した。

何かのトラブルとかアクシンデントに見舞われることは、

時に動揺させたり感情的になったりするだろうが
私に関していえば、日々トラブルとアクシンデントまるけの人生なので、

「今日に限って高速道路で警察に捕まって
大した罪でもない違反に余分なお金を払う」というのは、

落ち込むに値する出来事ではなかった。

 

 

過去お金がいつもなかった時期にふいに6000千円も請求されたら
泣いていただろうに、と思った。

今はその金額が痛くも痒くもなかった自分に、
わたしはむしろ、すごく誇らしくなった。

 

 

遅刻”しない”可能性はまだ30パーセント残っていたので、

わたしはそのまま意気揚々とアルケミスト女神に戻った。

 

 

最後の高速道路の出口を降り間違えて、

一回ならまだしも2、3回Uターンをしなければいけなくなったとき、

遅刻の可能性は65パーセントから100パーセントになり、
わたしは泣きながら、スタッフに連絡をし、

 

そしてそこで初めて落ち込み

うっかりしすぎている自分の不甲斐なさと情けなさに絶望した。

 

 

 

 

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