フードコート③

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フードコート②つづき

 

 

わたしはなんども繰り返して悪あがきをしても、ひとつも彼のこころを動かすことはなかった。

それでも1日一緒にいてもらって、あれほど怖くて悲しかった日は他にはなかったが、

しつこくすれば、何かを思い出してくれると思ったのかもしれない。

 

外に出て、わたしは帰ることができなかった。すでに別れを告げられてとっくに荷物も引き上げていたが、その後でわたしは押しかけていた。

これで帰ったら、もう全てが終わることを私は知っていた。

 

 

 

 

諦められなかった。苦しかった。悲しくて、ばらばらになってしまいそうであった。

その日はわたしの、誕生日であった。そんなことはどうでもよかった。彼を、繫ぎ止めたかった。

 

 

外に出て、車に乗り、彼は見送るが、わたしは車に乗らなかった。

雨が降ってきて、「早く乗りな」と彼は冷たく言った。

わたしは頑なに彼の前に立ち、彼をまっすぐに見つめた。

何も言わずに、ただ見つめて、動かなかった。

 

彼はほんとうにほんとうに嫌そうな顔で、「早く乗りなよ」となんども言った。

わたしは、動かなかった。

 

 

ひとりで車に乗せられたたおくんが泣き始めても、わたしは無視をした。

無視をして、別れた恋人の顔を見ていた。

 

これでわたしが引き下がったら、全ては終わる。わたしは、「どうして?」と聞いた。

「もう気持ちが戻ることはないから」と彼はすでに何度か言っていた。

その日どんな会話をしたのかあんまり覚えていないが、彼は最後に「今日一緒にいて、楽しくなかったでしょ?あんな状態で一緒にいたい?」とわたしを説き伏せるようにした。

 

わたしは何も言わなかった。彼がわたしにその日ついてきていいと言ったのは、
わたしに楽しくない時間を過ごさせて、諦めさせようとしたみたいであった。

 

しかしわたしとって、楽しいとか楽しくないとかそんなことはどうでもよかった。

ひととひとは、もちろん喧嘩もするし、不愉快な時間を過ごすことだって当然あることをわたしは知っていた。

 

でも彼のなかでは、もうとっくにそういう問題じゃなくて、
わたしに対する気持ちが一瞬のうちに冷めてそれはもう戻ることはなかったのだ。
かれは言葉少なに、「無理だから」と言った。

もう何を言っても、何をしても、どれだけしつこくしても、
変わらない彼の様子がよく伝わった。

 

息子が激しく泣いてしばらく経って、彼が「たおが泣いてる。見てられないから帰れ」と言ったタイミングで
わたしは我に帰り、車に乗った。

車に乗るときに、わたしはむりやり乾いたキスをした。

彼は石のように固まって、拒むこともせずに、
そこに一切の意思も気持ちもいれずに短いそれを受け入れた。

 

 

自分がどうしてそうしたのかもよくわからないが、本当に最後の最後に、
彼に触れたかったのか、それで何かが魔法のように溶けて奇跡がおこると思ったのかはよくわからない。ただ、そうした。

 

そしてわたしは車に乗って、雨のなかもう一度窓をあけて下から彼の顔をみて、
彼の、本当に本当に本当に嫌そうな顔を、まっすぐに見て、

目に焼き付けた。

 

 

そしてアクセルを踏んだら、何もかもが終わることを、わたしは知っていて、
知っていて、たおくんは泣いていて、雨は降っていて、

彼の気持ちは戻らなくて、
わたしはそして、レバーをパーキングからドライブに入れた。

 

 

どんな意識でそこから家に戻ったのかとか、

帰りの道中どんな想いだったとかは
まったく覚えていない。

 

ただ、終わったことをわたしは知り、それを受け入れた。

 

 

 

 

 

 


あれから丸一年。最後の日に行ったそのイオンは、毎月のように歯医者の帰りに訪れていた。

しばらくの間は一歩も寄り付きたくはなかったが、
歯医者は山下の新居に近かったので仕方がなかった。

一ヶ月ごとに、確認作業のように自分のなかの感覚が変化するのを確かめていった。

 

 

数ヶ月がすぎ、少しづつ傷が癒え、いつか元気になったころは、

歯医者にいく道すがら彼のことを忘れていて、はっと驚いたこともあった。

 

ひとは自然治癒力がそなわっているんだなあと感激したし、そんな自分にほっとしながら、

そのうち「元気にしてるかなあ」とケロッとするようになって、

いつしか私には新しく好きな人ができた。

山下よりももっと素敵でかっこいい人で、わたしは半分ざまあみろ、と思った。

 

 

 

そのあとだいぶ経ってから、コンサルに行ったときにある日突然「山下?」と訊かれた。

「なぜか山下のエネルギーがちらついている!なんかあった?」と言われて、
まったくやりとりもないし、完全に忘れていた私は不思議に思った。

彼のことをとっくに吹っ切っていたころであった。

 

わたしの周りに、山下がまとわりついているらしかった。

先生がサイキック娘に確認すると、

「まいちゃんに、謝ってる。ごめんねって謝ってる」とのことであった。

 

時間が経って、わたしを傷つけたことに対してなのか、
何に対してなのかはまったくわからなかったが、彼のなかで罪の意識に変わった時間があったようだった。

 

わたしはそれを聞いて、ほっとしたというか嬉しくなって、

 

あの冷たかった2月に彼に頑なに拒絶されて
真っ暗な海の底に叩きつけられた自分を、必死でその後、乗り越えた甲斐があったなあと
そんな風に思った。

わたしは自分を責めて、責めて、責め抜いた。

彼を失ったことは、自分が過ちを犯した結果なのだとそう思っていた。
そのくらい彼の態度は冷たかったし、当時はまだ「表現する」という部分でたくさんつまづいており、

わたしは彼のことを結果的に虐めたようになり、
「書いた」自分にとてつもない罪の意識を感じていた。

 

 

いまとはなっては私は彼と別れて本当によかったなあと素直にそう思うが、
もちろんその時は違った。

普通に彼のことが好きだった。

いろんな打算もあり、小賢しく彼を利用したり利用されたり、
青くさい関係で色々な意味で釣り合わなかったが、

わたしたちは普通に好き合っていた。

 

 

 

フードコート④

 

 

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