もしもし

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その人にまだ逢うもっと前のこと

 

日本人離れした体型に

俳優みたいなルックスで
目立つ経歴の持ち主だったその人は

さぞかし女性にモテるのだろうと

わたしはそう、思っていた。

華やかに見える外側

蓋を開けてみると
驚くなかれ

虫取り網を持って麦わら帽子をかぶった裸足の純真無垢な少年が

 

そのまんま

何かを間違えて

まっすぐなまま

中年になってしまったような
そんな間抜けな人であった。

 

 

とても

さらりと女性に慣れているような様子はなく

初めて逢ったとき

 

どきどきしながら待ち合わせ場所のホテルのエレベーターを降りて

駅で食事をする場所を探しに出たとき
歩幅も合わせてくれず

わたしに目もくれずに

長い足でさっささっさと歩いていってしまって

あっけにとられた。

 

 

わたしは人混みにあっという間に見失わないように

駆け足で追いかけて
なんてマイペースな人だ、と

呆れたと同時に、

 

安心した。

 

 

 

女性慣れしていないのは明らかだった。

 

 

今まで付き合ってきた男のひとは皆、

 

さりげなく歩幅を合わせたり

さりげなく声をかけたり先回って車のドアを開けてくれたり

気の利いたメールの返事をくれるような

そんな人ばかりだった。

 

 

 

大してメールの返事もくれない、
仕事に没頭して今日が何曜日なのかもわからなくなって

全国を回りながら疲れて

倒れるようにして時々スイッチが切れる

 

そんなひとのことを、

わたしは好きになってしまった。

 

 

初めて逢って食事にいったあと

別れるのが惜しくて惜しくて

 

わたしはクタクタに疲れて眠気の限界だったのだけど

蒸し暑い8月の月明かりの下で

その人の横顔をずっと眺めていたくて

 

眠い目をこすりながら

つまらない話に耳を傾けた。

 

 

 

 

「デートとかはどんなとこに行くんですか?」

と聞いたときに

 

「デート」って言葉を

産まれて初めて聴いたような顔をして

 

キョトンとしていたのが印象的だった。

 

 

 

興味のあることには情熱を注ぎ続けるが、

興味のないことには一切目もくれない様子が

 

言葉からも

態度からも

よくわかった。

 

 

そのとき、「女性」にほとんど

興味がないように見えた。

 

 

 

わたしは、

そのひとのことを知ろうと必死で

 

「水族館とかー、美術館とかー、」

 

自分の好きな場所を一生懸命投げかけてみたが
反応はゼロの中のゼロで、

 

それ以上

全く会話は膨らまなかったのを

よく覚えている。

 

 

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