gift- 大切な宝物-⑤

img_7291

 

わたしはA4の紙にびっしり書かれたその手紙を

最後まで読んで、泣いた。

 

 

そしてその「本」の正体を知り

そこで初めてクライアントさんと薄紙に包まれた「1万円」の間の溝が埋まった。

 

 

最初に「本を送りました」とメッセージが届いて、

「泣いています」と言った彼女の様子が

 

手に取るようにわかった。

 

 

 

 

わたしは小さな薄いその冊子を開き

 

 

彼女のいつか、臨んだニュージーランドの空と

わたしがたおを産んだときに毎日目にしていた

その空を

 

 

しっかりと繋げた。

 

 

日本で写真を撮っても絶対にでないその「空色」について

大学時代に大きな一眼レフを首にぶら下げて

 

生まれて初めて外国を訪れたその時

 

同じニュージーランドで

同じ色彩を

気が触れたように何百枚も切り取ったことを想った。

 

 

 

 

 

その手紙は、そして

わたしに宛てられたものだったが

 

 

 

わたしの中にはもう既に、

「母の顔」しか思い浮かんではいなくて

 

今までも何度もクライアントさんから

感謝のメッセージは受け取っていたが

 

 

今回のそれは、

私のために送られたものではなく

 

わたしの母に宛てられたもののような気がした。

 

 

 

 

 


わたしは、

今までほとんど、母に自分のはなしをしてこなかった。

 

 

会社で褒められたことも、

何十分の1の確率で採用されたことも、

 

誇りに思えるできごとも

 

 

好きなひとができたことも

振られて悲しかったことも

 

 

 

何もかも

ひとつも、

話してこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

2月の終わり、錯乱状態になって

父と母に助けを求めたとき

 

父が部屋にやってきて

「何があったんだ」と言われたときにわたしは

 

「大好きなひとがもう会えないって」

言えた。

 

ぐしゃぐしゃに泣きながら、

悲しいことを、伝えた。

 

 

 

 

でも母がやってきて

わたしが動けなくなって床にうずくまって
横でたおがお腹を空かせて泣いていたとき

 

 

「どうしたの、何があったの」

 

 

と言われても

 

 

 

わたしは

 

一言も言葉にすることができなかった。
ただ黙り込んで、泣くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

わたしは、母に、

自分のことを

 

 

なにひとつ

 

なにひとつ

 

 

話すのをやめてしまった。

 

 

 

 

それはもう、30年くらい前に

きっと

 

やめてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

わたしは

 

人から感謝されたいわけじゃなくて

誰かに認められたいわけじゃなくて

 

ただ今、がむしゃらに自分のできることをしているだけで

人が心安らいでいく姿を見るのが生きがいで

人が幸せになっていく姿を見るのが生きがいで

 

だから「ありがとう、まいさんありがとう」

と言われても

 

「それ」を欲しがっているわけじゃないことを知っていた

 

 

 

でもそこに

 

「まいさん、ありがとう」と書いてあって

 

「おかあさん、おとうさん、まいさんを生んでくれて

 

ありがとう」

 

 

と書いてあって

 

 

 

こんなにも自分のことを誇りに思うことはなくて
自分のために、自分を誇りに思うのではなくて
母の娘として、そう感じずにはいられなくて

 

 

 

生まれて初めて

 

小さな子供のように

 

 

「わたし、こんなにすごいんだよ、おかあさん

わたし、役に立ってるんだよ

 

わたし、愛されてるんだよ

 

 

おかあさんの、娘、

こんなにも素敵なしごとをしてるんだよ」

 

 

 

 

伝えたくなった。

 

 

 

 

嬉しいことも

悲しいことも

 

なにひとつ母に言えなかった私は

 

 

変わったのだ。

 

 

 

そして、そういうタイミングで、

この手紙が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

こんな手紙をいただいたよ、

と自分の言葉で書くのではなく

 

 

そのまま全ての手書きのこころの篭った文面を

母に読んでほしかった

 

 

 

「まいさん、

わたしも、まいさんと同じように

 

母のことが大好きで」

 

 

という言葉を

 

私からではなく

そのクライアントさんの言葉を通して母に触れてほしくて

 

 

わたしはそのままそれをコピーした。

 

母への、誕生日プレゼントだ。

 

 

写真集も一枚一枚スキャナで取り込んで、

一緒に渡すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Commentする

投稿時メールアドレスは表示されません *は必須です