Integrate vol.4

 

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   つづき

 

 

山下の、その最後に発した言葉は、

 

最初に書いていた、

 

「本当の意味での自立」へわたしが向かう

それをそのまま表していました。

 

 

わたしは、

 

最後の審判を受けたように、

 

熱を帯びていた頭が
すうっと冷めていくのを感じました。

 

ものすごく動揺しているはずが、
どんどん自分のなかの感情が、
静まっていくのがわかりました。

 

 

「そっか、そうだね。」

 

 

と私は小さく言って、

 

 

山下は、

 

それが、私にとって同時に

「山下を手放す」ことだとは
まだわかっていませんでした。

 

 

わたしは、

 

自分が卑怯なやりとりの末に、

思い通りの言葉を山下から引き出して、
もう、なにもかも、

 

十分すぎるような気がしました。

 


 

 

 

わたしは、

自分が一番恐れていたことを、

そのまま訊ねました。

 

 

「じゃあ山下は、わたしが稼げなくなったら、
書くのもセラピストもやめて、普通の主婦になったら、

それでもわたしに魅力を感じる?」

 

 

 

山下は、

 

返事を、しませんでした。

 

山下の顔が、曇っていくのが、

わかりました。

 

 

 

わたしは、

もう、十分なはずなのに、

もう、それで十分なはずなのに、

 

 

最後の決定打がまだ欲しくて、
最後に自分の背中を押す言葉が欲しくて、

自分が一番痛い言葉を

 

山下から引き出そうとします。

 

 

 

「わたしが、仕事も全部やめて、
いまやってることぜーんぶやめて、

 

1円も稼がなくなって、なにもしなくなって、

 

じゃあ、わたしとたおのこと、山下が
ぜーーーーんぶ何もかも面倒みてね!!!!

 

って言ったら、

 

 

嫌でしょ!?」

 

 

 

 


 

最後にわたしがそれを聞いたとき、
わたしは感情的でした。

ヒリヒリ、

ヒリヒリ痛いのに、

 

その傷口に

もっと確実な傷をつけるようなことを

わたしはしていました。

 

 

 

 

わたしは、

弱く、

 

卑怯でした。

 

 

「本当は、なにもなくなったわたしを

ただ、好きでいてほしい」

 

 

そうやって、素直に、

彼に自分の不安を

 

打ち明けるべきだったのに

 

 

わたしは弱く、

 

山下は、

そんなこと

 

ひとことも言っていないのに

 

 

「なにもなくなったマイには、

興味がない」

 

 

無理やり答えさせようとしたのです。

 

 

 

山下は、

 

なにも言いませんでした。

 

 

すごく、嫌な顔をして、

 

それっきり黙り込んだまま

 

なにも言わなくなりました。

 

 

 

わたしは、

なんども繰り返して

同じことを言わせようとしたこのやりとりの最中から

 

意識が朦朧としてきて

普段はなしをしているときに眠たくなることは

いままで一度もなかったのに

 

山下が黙り込んだあと

 

激しい眠気のなかで
瞼がおかしいほどに重たくなりました

 

もう、話すことはなにもなくて

 

山下は暗く、うなだれて

わたしはその横でほとんど眠っていて

 

山下が

 

「俺はほんっとに何もわかってねえな」

 

と小さくつぶやいたのが聞こえました

 

 

わたしは、

自分が悪者になりたくなくて、
自分が正直に山下に向かい合えなかったことを

ごまかし

 

山下が自責の念を感じていることで

山下のせいにしたのです。

 

 

 

 


 

 

山下は、なにも言いませんでした。

 

真っ暗で静かな時間はそのまますぎて、

わたしはもう動けなくなって、

 

山下は、

やっぱり、なにも言いませんでした。

 

 

わたしはもう、

疲れ果てていて、

 

ただ、眠りたかった。

 

 

「帰る?」と聞いて、

 

山下は、前にビンタをされて
そそくさとひどい形相で帰って行ったときとは違い

 

ゆっくりと立ち上がって、

怒りの混じった声で

 

「おれはただ一緒にいたかっただけだよ」

 

と言って

帰ろうとしました。

 

 

 

玄関で

なにも言わずに出て行こうとする山下が

 

いままでと違って

 

わたしは

全てを

全てを自ら引き起こしたくせに

 

突然

(こんな最後はいやだ

それでも一緒にいたいって言ってよ)

 

とこころのなかで叫びました

 

 

わたしは、

まっすぐに、山下に向かい合えなかった。

 

本当は、

 

「全部やめてもいいよ

全部やめて、おれと一緒にいよう」

 

 

と、言って欲しくて

 

 

 

 

でも、そんなことを

そんなわたしを

 

わたし自身が望んでいるわけはなくて

山下もそれを知っていて

 

 

山下は

 

わたしと一緒にいたいのに

ただそれだけだったのに

 

 

わたしは、

 

山下の優しさも

きもちも

 

なにもかも

 

 

踏みにじったのです

 

 

 

 

 

わたしは

初めて

山下を玄関で引き止めて

彼の上着を引っ張って

 

どうでもいい

 

忘れ物のはなしをしました

 

 

 

山下は

 

初めて

 

わたしの手を振り払い

 

 

「全然納得できてないけど」

 

わたしの顔を一切見ず

 

「おれは、ただ一緒にいられればそれでよかった」

 

 

そう言って、

 

振り返りもせずに

 

 

帰りました。

 

 

 

 

 

わたしは、

前回、山下が出て行って声をあげて泣いたときとは違い

そのまま静かに

 

ベッドにもぐりこんで

 

死んだように

眠りました

 

 

 

山下が

 

いつまた引き返して

わたしのことを抱きしめにきてくれてもいいように

 

鍵をかけずに

 

そのままにして

 

 

 

 

山下は

 

 

 

戻ってきませんでした。

 

 

 

 

 

 

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